大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成8年(ワ)14405号 判決

平成八年(ワ)第一〇五七八号事件原告同年(ワ)第一四四〇五号事件被告

山本照和

右訴訟代理人弁護士

磯崎良誉

磯崎千壽

平成八年(ワ)第一〇五七八号事件被告同年(ワ)第一四四〇五号事件原告

山舘商事株式会社

右代表者代表取締役

岩本浩一

右訴訟代理人弁護士

清水聡

平成八年(ワ)第一〇五七八号事件被告及び同年(ワ)第一四四〇五号事件原告の各訴訟引受人

株式会社カミングコーポレーション

右代表者代表取締役

岩本政次

右訴訟代理人弁護士

吉田康

主文

一  平成八年(ワ)第一〇五七八号事件及び同年第一四四〇五号事件は、いずれも、平成九年一月一六日成立した裁判上の和解により終了した。

二  平成八年(ワ)第一〇五七八号事件原告の訴訟引受人に対する訴え及び同年(ワ)第一四四〇五号事件について訴訟引受人が訴訟引受命令により同事件原告から引き受けることとなった訴えを、いずれも却下する。

三  第一項掲記の和解成立の後に生じた訴訟費用は、平成八年(ワ)第一〇五七八号事件原告、同年(ワ)第一四四〇五号事件被告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の請求

(以下、平成八年(ワ)第一〇五七八号事件原告、同年(ワ)第一四四〇五号事件被告を「原告山本」、平成八年(ワ)第一〇五七八号事件被告、同年(ワ)第一四四〇五号事件原告を「被告山舘商事」という)

一  原告山本

被告山舘商事及び訴訟引受人は、原告山本に対し、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という)につき、平成八年(ワ)第一〇五七八号事件訴状別紙目録(二)記載の造作等の変更をすることを承諾せよ。

二  被告山舘商事

1  主文第一項と同旨

2  予備的請求

原告山本は被告山舘商事に対し、本件建物を明け渡せ。

三  訴訟引受人

原告山本の訴訟引受の申立ての適法性を争うが、予備的に、原告山本に対し、本件建物の明渡しを求める。

第二  当事者の主張

一  原告山本は、平成八年(ワ)第一〇五七八号事件について、別紙「請求の原因(一)」記載のとおりの主張をし、同年(ワ)第一四四〇五号事件について、被告山舘商事がした本件建物の賃貸借契約の解約申入れに正当事由は存しないと主張した。

平成九年一月一六日の第六回口頭弁論期日において、右各事件について、別紙「和解条項」記載の内容による裁判上の和解が成立した(以下、この和解を「本件和解」という)。しかし、原告山本は、本件和解について、次のような無効原因ないし取消原因があると主張し、併せて、右無効・取消原因の存在を前提として、本件和解後に本件建物を含む別紙物件目録記載の一棟の建物(以下「本件ビル」という)について所有権移転登記を経由した訴訟引受人に対し、被告山舘商事の本件訴訟に係る権利義務を承継したとして、訴訟引受の申立てをした。

1  原告山本は、本件和解成立後である平成九年二月二七日になって初めて、本件和解成立前である平成八年一一月一日に本件ビルの所有権が被告山舘商事から共同起業株式会社に売買及び共有物分割を原因として移転し、その登記が経由されていることを知った。被告山舘商事は、右所有権移転登記の時点で本件建物の所有権及び賃貸人としての地位を失ったものである。

2  ところが、被告山舘商事は、右事実を原告山本に知らせないまま本件和解をしたものであり、原告山本には、本件和解をするについて、要素の錯誤があったものである。原告山本は、被告山舘商事が五〇〇〇万円の和解金の内金である一〇〇〇万円を約定の期日である平成九年二月二二日に支払わないので、被告山舘商事の和解条項の履行に一抹の不安を持ち、念のため本件ビルの登記簿謄本を取ったところ、右事実が判明したのである。

3  被告山舘商事が本件建物の所有者である賃貸人であるかのように装って本件和解を成立させたことは詐欺にあたるから、原告山本は、被告山舘商事の右詐欺に基づき、本件和解を合意した意思表示を取り消す。

二  被告山舘商事は、原告山本の錯誤及び詐欺の主張を争い、平成八年(ワ)第一四四〇五号事件について、別紙「請求の原因(二)」記載のとおりの主張をし、同年(ワ)第一〇五七八号事件について、原告山本にその主張のような請求権があることを争った。

三  訴訟引受人は、本件和解が無効又は取り消し得るものであり、かつ、訴訟引受人が被告山舘商事の本件訴訟に係る権利義務を承継したとする原告山本の主張を争い、また、被告山舘商事が主張する請求原因とは別の、賃料不払いを請求原因として、原告山本を被告として、本件建物部分の明渡しを求める訴訟を当庁に提起したが、予備的に、原告山本の訴訟引受の申立てが認められる場合には、本訴においても右別訴の請求原因を主張する旨述べた。

第三  当裁判所の判断

一  本件和解の無効・取消原因の存否について

本件建物について、原告山本主張のような登記がされていることは明らかであるが、弁論の全趣旨によれば、これは譲渡担保としての所有権の移転であることが認められ、他に被告山舘商事が本件建物の賃貸人としての地位を失ったことを認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告山舘商事が本件建物の賃貸人としての地位を失ったとの事実を前提とする原告山本の錯誤の主張は理由がなく、また、被告山舘商事が本件建物の所有者であり賃貸人であるかのように装ったとの事実を前提とする原告山本の詐欺の主張も理由がない。

弁論の全趣旨によれば、本件和解により被告山舘商事が原告山本に対して負担した五〇〇〇万円の支払義務について、被告山舘商事は、和解成立後一か月余り後に支払うことを約した一〇〇〇万円の内金についてすら支払を怠っていることが認められるのであり、このことにより、原告山本が被告山舘商事に対して様々な疑問を抱くことは無理からぬところであるが、原告山本の和解無効等の主張に基づき指定した最初の口頭弁論期日である平成九年九月二六日から相当日数を経過した後においても、原告山本から右の点以外の特別の主張立証の追加はないので、結局、原告山本の和解無効等の主張は理由がないものといわざるを得ない。

二  訴訟引受の申立てに係る訴えについて

原告山本は、本件和解が無効であることを前提として、訴訟引受人が被告山舘商事の原告山本に対する地位を引き継いだとして、平成一〇年二月一〇日、訴訟引受人を相手方として、訴訟引受の申立てをした。当裁判所は、関係人の審尋の結果、本件和解の無効・取消原因の有無について審理するには、訴訟引受人に訴訟行為をすることを求めるのが相当と認め、平成一〇年三月二日、訴訟引受人に訴訟引受を命じた。

その後の口頭弁論の結果、前記一のとおり認定することとなったものであるが、そうすると、右訴訟引受の申立ては、本件和解が無効又は取り消し得るものであるとの前提事実が認められないこととなり、理由がないことが明らかになったといえる。

したがって、原告山本の訴訟引受人に対する訴え及び訴訟引受人が訴訟引受命令により被告山舘商事から承継することとなった訴えは、いずれも、訴訟承継適格のない者に対する訴え及び訴訟承継適格のない者からの訴えであったことになるから、却下すべきである。

三  結論

以上のとおり、本件各事件は裁判上の和解によって終了したものであるから、その旨の宣言をすることとし、本件訴訟引受の申立てに係る訴えをいずれも却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官園尾隆司)

別紙和解条項〈省略〉

別紙物件目録〈省略〉

別紙請求の原因(一)

第一 本件建物部分の賃貸借契約と造作等の変更に関する約定

一 原告は、昭和四二年一一月二五日別紙目録(一)記載の建物部分(以下、本件建物部分という)を靴、ハンドバッグ等を販売する店舗として使用する約定で被告から賃借し、前同日付貸室賃貸借契約書(甲二号証)を作成した。

二 本件貸室賃貸借契約書の条項八の(四)には、「借主が貸室の修繕、造作、間仕切りの新増設又はこれを変更する場合には、予め図面を添付して書面による甲の承諾を受けなければならない」との約定がある。

第二一 原告は、平成七年一二月以来本件建物部分の造作等の変更を計画し、平成八年三月中に別紙目録(二)記載のとおり造作等の変更をなすことを決定した。そこで、平成八年四月九日別紙目録(二)と同一内容の書面一通を添付して、その内容による造作等の変更について被告の承諾を求める文書(甲三号証の一、二)を被告宛に郵送し、翌一〇日被告に到達した。

二 然るに、被告は原告の申出を黙殺し現在にいたるまで何らの回答をしない。

三 原告は、前記第一の二の特約に基づき、本件建物部分につき別紙目録(二)記載のとおり造作等の変更をなすことは、正当である。

よって、請求の趣旨記載の判決を求めて本訴を提起する。

別紙請求の原因(二)

一、原告は被告に対し、昭和四二年一一月二五日、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という)を、賃料一か月金一三万円、保証金九〇〇万円、期間三年間の約定で貸し渡した。

また、本件賃貸借契約において、原告が本件賃貸借契約を解除する場合には、二か月前に被告に予告するものとし、被告がこれを承諾し明け渡したときは、「保証金の全額と保証金の一割相当額」を支払う旨の合意がなされている。

二1 その後、本件賃貸借契約は更新を繰り返したが、原告は昨年一二月に本件賃貸借契約の解約を申し入れた。

2 そして、右解約申入には正当事由がある。即ち、本件建物は築後既に四四年を経過し、老朽化が著しいため、昨年の阪神大震災のような地震が発生した場合には倒壊するなどの危険性があるものであって、かかる事情に鑑みて原告としては本件建物を取り壊す予定である。

三、本件建物の老朽化が著しいものであることは被告も認めるところであるが、明渡には応ぜず、かえって御庁に対し、貸室造作変更承認請求訴訟を提起するに至った(平成八年(ワ)第一〇五七八号―御庁一四部い係)。

四、よって、原告は請求の趣旨記載の判決を求めて、本訴提起に及んだ次第である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例